二〇〇五年二月、アメリカの大手ハンバーガーチェーン「マクドナルド」は、フライドポテトなど揚げ物に使用する油を、従来のものから健康に配慮したものに切り替えると発表していながら、期日までに実施せず、またそのことを消費者に公表しなかったことで訴訟を起こされ、和解金を八百五十万ドル(約九億円)支払うことで和解しました。問題の「従来の油」というのは、「トランス脂肪酸」といわれるもので、欧米では高血圧や糖尿病、心臓疾患、ガンなどさまざまな健康被害がとりざたされているものです。現在欧米では、食品の成分表示において、トランス脂肪酸の合有量表示が義務づけられているうえ、ある一定量以上のトランス脂肪酸を含む食品は販売が禁止されています。しかし日本では、トランス脂肪酸の害についてほとんど認知されておらず、表示義務もありません。トランス脂肪酸というのは、自然界では反勿動物(牛・羊・ヤギなど)の体内に少し見られるだけで、ほとんど存在しません。問題視されているのは、人工的に作られたトランス脂肪酸です。

 

魚油や植物の種などに含まれる不飽和脂肪酸のほとんどは、「シス脂肪酸」として存在しています。シス脂肪酸は、人体に悪影響はないのですが、酸化しやすいという欠点があります(酸化すれば当然、体にはよくないものとなります)。自然界に存在しているオイルのほとんどがシス脂肪酸なのに、なぜこれほどまでにトランス脂肪酸の害がとりざたされるのでしょうか。それは、 一般的に売られている植物性のオイルのほとんどが、その製造過程においてトランス脂肪酸になってしまっているからです。

 

現在市販されているオイルの多くは、原材料にヘキサンという化学溶剤を入れ、煮溶かすことで油を抽出するというやり方で作られています。この製造過程で不安定なシス脂肪酸は、安定した(酸化、つまり腐敗しにくい)トランス脂肪酸に姿を変えます。ヘキサンというのは、灯油やガソリンに多く含まれるメタン系炭化水素の総称です。このヘキサンに含まれる「水素」成分が不安定なシス脂肪酸に結合することによって、トランス脂肪酸となるのです。トランス脂肪酸が酸化しないのは、それ自体がすでに過酸化脂質と同じ構造になってしまっているからです。過酸化脂質が体内に入れば、大量の活性酸素が生み出され、膨大な量のエンザイムがその解毒に消耗されます。


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